19世紀ヴィクトリア時代のヨーロッパで大流行し、100年ぶりに日本で甦った
 漆黒の宝石  ヴィクトリアンジェット

  「黒い琥珀」と呼ばれたジェット
 

ローマ時代に作られた
メドゥーサの頭部を
象ったペンダント

 20世紀初頭、顕微鏡によって、“年輪”が確認されるまで、ジェットは琥珀のように“樹脂の固まったもの”と考えられていました。琥珀とジェットはどちらも大変軽く、木や絹の上でこすると静電気を帯びるという性質も同じことから、古代ローマ人は、ジェットを「黒い琥珀」と呼んでいました。
どちらも人工的に採掘できるようになるまで、主に海辺に打ち上げられたものを拾うといった方法で採取されていたのも、同一視された要因と考えられています。

  ハードジェットとソフトジェット
 
 ジェットには「ハードジェット」と「ソフトジェット」の2種類があります。
この2種類のジェットの違いは、ハードジェットが粘りと弾力性をもち、精巧な加工に適しているのに対し、ソフトジェットはもろく、加工や熱に弱い点にあります。ソフトジェットは長い年月に耐えることなく壊れてしまうので、現存するジェットの遺物は、ハードジェットでできたものばかりです。
硬さは、琥珀や真珠とほぼ同じ・・・やわらかい
ジェットの硬度(モース硬度)は、2.5~4。これは琥珀(2~2.5)や真珠(3.5~4.5)とほぼ同等で、もっとも硬いダイヤモンドは硬度10です。
重さは、オニキスの半分以下・・・かるい
ジェットの大きな特長のひとつは、その「軽さ」です。比重で比べると、宝石でもっとも軽い「琥珀」の1.08に次ぐ1.33。ちなみにオニキスは2.61で、重さではジェットの倍以上となります。
組成・・・石炭の仲間
化学的分析によれば、ジェットは「瀝青炭(れきせいたん)」という炭素物質に分類され、燃やすと石炭特有の匂いを発します。

  産地・・・イギリスから中国へ
 

中国産の現代ジェットで
作られたミニチュア家具

 イギリス、スペイン、フランス、ドイツ、トルコ、ポーランド、ロシア、中国、アメリカ……ジェットは世界中でみつかります。しかし、歴史的にも、良質なハードジェットがみつかることからも、もっとも重要な産地は、イギリス、ヨークシャーのウィットビー(Whitby)といえるでしょう。
 しかし、19世紀末にウィットビーの鉱山は閉鎖され、ジェットの採掘は不可能となりました。近年、ウィットビー産とほぼ同質の良質なジェット原石が中国で発見されるまでの約100年間、ジェットが「幻の宝石」と呼ばれていたのは、このような理由によるものです。
        

 「魔除け」として身につけられた人類最古の宝石

 

紀元前1万年に南ドイツで作られた
幼虫を象ったお守り
(長さ38ミリ)

 ジェットは真珠と同じく、人類が発見した最古の宝石のひとつです。紀元前1万年の石器時代から装飾品として加工され、南ドイツやスイスの遺跡から、「魔除け」として使われたジェットが発見されています。古代の人々にとって、摩擦すると帯電するジェットの性質は神秘的で魔力を秘めたものだったのです。

 古代ローマ人に好まれたジェット
 

ローマ時代(3~4世紀)に作られた婚約のメダル
(直径50ミリ)

 
 
 古代ローマ人がイギリスを占領していた時代、ジェットは先住民族であるケルト人からローマ人へと伝えられ、「黒い琥珀」と呼ばれて珍重されました。リング・ブレスレット・ネックレス・ペンダントなどの装身具をはじめ、髪留めや短剣の柄、サイコロなどが、イギリス国内の古代ローマ遺跡から発見されています。
 その後、古代ローマ帝国が衰退し、4世紀にローマ人がイギリスから去ると、ローマ人に愛されたジェットは次第に姿を消していきました。
 
 
 
 キリスト教と結びついた中世のジェット
 

巡礼者への土産物として
16世紀スペインで作られた
聖ヤコブ像
(高さ150ミリ)

 7世紀にキリスト教がイギリスに伝来して以来10世紀にわたり、ジェットは主に教会に関連した装身具として、ロザリオ・クロス・リングなどに加工されていました。また、中世においてもジェットの超自然的な力が人々を惹きつけ、魔除けや護符として身につけられていました。
 特にスペインでは、「ヒーガ(higa)」と呼ばれる手の形をしたお守りが「邪眼(evil eye)」除けとして、王家の子どもたちに身につけられていました。また9世紀頃から、サンティアーゴ・デ・コンポステラの聖ヤコブ(サンティアーゴ)寺院への巡礼者向けの土産物にジェットが使われ、聖ヤコブを象った置物などに加工されて13世紀にはジェットの売買が繁盛していました。
 しかしその後、17世紀の宗教改革により、偶像崇拝が非難されるとともに、ジェットの装身具は身につけられなくなり、ジェット産業もこの時期またもや衰退しました。

 モーニングジュエリーとして甦ったヴィクトリア時代のジェット

ジェットジュエリーを
身につけた女性
(1870年頃)

 1861年、ヴィクトリア女王の夫君アルバート公の死によって、モーニングジュエリー(喪に服する期間に身につけられる装身具)と定められたジェットは、イギリスを中心にヨーロッパで大流行し、最盛期には街のすべてのショーウィンドーがジェットで黒一色に埋め尽くされるほどでした。
 アイテムとしては、ネックレス、ブローチが主流で、ペンダント、イヤリング、ブレスレットも変化に富んだデザインで作られていました。

 流行の終焉

ポーセレン&ジェット
ブローチ(穐葉アン
ティークジュウリー
美術館蔵)

 1887年、25年間ものあいだ夫君アルバート公の喪に服していたヴィクトリア女王が、即位50周年を祝う式典で「喪服の緩和令」を発令しました。それと共に社会も明るさを取り戻し、ジュエリーも、ダイヤモンドや真珠、そしてモノトーンを離れてアクアマリンやペリドットなどやさしい色調の色石が使われるようになりました。こうした流行の移り変りとジェットの模造品の出現などによりジェット産業は急速に衰退、ジェット産業の中心地だったイギリス・ウィットビーのジェット鉱山も閉鎖され、歴史の表舞台から姿を消しました。

 ファッション界でも再評価 不死鳥のように甦ったジェット

ファッションマガジン

 近年、パリコレクションなどを中心に、アンティークのジェットがファッションジュエリーとして世界的に再び注目されるようになりました。
「黒い宝石」としての美しさは、モーニングジュエリーという活用の枠を超え、カジュアルから華やかなパーティーまでさまざまなシーンで活用でき、装いに気品と華やぎを添えるものと認知されています。
 アンティークを手に入れるしかなかったジェットの世界。1993年に中国で新たにジェットの鉱山が発見されたことで、20世紀末の日本で「ヴィクトリアンジェット」として再びその姿を現したのです。
 
 

 

 19世紀、長く夫君アルバート公の喪に服したヴィクトリア女王(1819-1901)に、黒の装いに合う装身具として愛用されたジェットは、イギリスを中心にヨーロッパで大流行し、現在でも多くの国で正式な「モーニングジュエリー Mourning Jewellery」(喪に服する期間に身につけられる装身具)とされています。(上は、若き日のヴィクトリア女王。1842年頃。穐葉アンティークジュウリー美術館蔵)


日本でも、喪の正装は黒の洋装
 現在日本でも、喪服の色といえば黒ですが、そのルーツもヴィクトリア女王にあります。女王が喪の期間に着用した黒ずくめのドレスが手本になり、それ以降黒の喪服が定着しました。
 イギリス王室にならって日本でも明治期以降、喪の正装を黒の洋装とし、黒いジュエリーをモーニングジュエリーとして採用しています。

すべてモーニングジュエリーとして使える「ヴィクトリアンジェット」
 通夜・葬儀・告別式・法要とある日本の喪の席で、そのときどきにふさわしい装いとアクセサリー選びはむずかしいものですが、「ヴィクトリアンジェット」の商品はすべてモーニングジュエリーとして身につけていただけるものばかりです。

モーニングジュエリーとしての装いのヒント

葬儀・告別式◆すべて黒色、シンプル、控え目が基本
 洋装の第1礼装は、黒のアンサンブルを着用し、帽子・バッグ・靴・手袋・アクセサリーともに黒色で控え目、シンプルなデザインのものがふさわしいとされています。光沢のある素材は避け、靴はできるなら裏皮、バッグは布製、アクセサリーはジェットのネックレス&イヤリングが望ましいでしょう。イヤリングは、ぶら下がりのないスタッドタイプのものを。

通夜◆紺・グレー・黒など地味な服装で
 喪主・親族の方は、第1礼装で。その他の方は、紺・グレー・黒など地味な服装にします。胸元にジェットのブローチ一つだけでも、ネックレスに勝るとも劣らないフォーマルな印象になり、故人への哀悼の意を表すことができます。

法要◆控え目な色づかいの服にお気に入りのジェットを
 回忌を重ねるごとに“喪”も薄れてきます。親族の方なら一回忌~三回忌までは、葬儀・告別式の席と同じ装いで。知人や友人の方、あるいは親族の方も7回忌以降なら、グレーやベージュの洋服に、お気に入りのジェットジュエリーを身につけるだけで、喪のシーンを演出することができます。
                 
アクトイーストのジェット・コレクション
アクトイースト所蔵のアンティーク・ジェット・コレクションジェットや有機素材のジュエリーをご紹介します。
ジェットについて動画で見る
ジェットの歴史
(2分36秒)
ジェットの製作プロセス
(3分10秒)
ジェットで装う
(1分41秒)
 
ジェットを展示している美術館・博物館

 

 

穐葉アンティークジュウリー美術館

那須高原にある日本初のアンティークジュエリー専門美術館 

穐葉アンティークジュウリー美術館

大英博物館(ロンドン)

イギリス国内で発見された紀元前2500年~中世までのジェット加工品(ビーズ、リング、ボタン、ペンダント、ブレスレットなど)

British Museum

ヴィクトリア&アルバート美術館(ロンドン)

19世紀のジェットジュエリー

Victoria and Albert Museum

国立考古学博物館(エディンバラ)

青銅器時代のネックレスなど

National Museum of Antiques

ヨークシャー博物館(ヨーク)

ローマ時代のジェット(ビーズ、ヘアピン、ペンダント、ブレスレットなど)

Yorkshire Museum

キャッスル博物館(ヨーク)

英国19世紀のウィットビーのジェット工房など

Castle Folk Museum

ウィットビー博物館(ウィットビー)

英国・ウィットビーにある博物館。ウィットビー近郊で発見された青銅器時代およびローマ時代のジェット(ビーズ、リングなど)、14世紀のクロス(十字架)、19世紀のジュエリーやオブジェ。

Whitby Museum

ウィットビージェットワークス(ウィットビー)

ジェット加工の作業工程を再現した、19世紀の工房

Whitby Jet Works